女だから言えること | 引きこもり、精神病からの生還

太ったおじさんみたいなおばあさんの皮肉とメロドラマに満ちた遺言。

夜の街と8年間のダブル不倫

夜遊び大好きだった私は、面白いバーがあると聞けば一人でフラフラと出向いて行って、興味深い店なら、通って、通っていると常連になって、というふうに馴染みの店を何件か持っていました。

 

夜遊びの面白いところは、住所も、電話番号も、職業も、年齢も、本名さえも知らない人間どうしがニックネームで呼び合い、お互いの人生の裏の部分を告白しあい、あるいは気が合えば、連絡先を交換したり、本物の友人になったりもするのです。

 

人間は表と裏をうまく使い分けて生きています。「お酒」と「夜」は人の口を軽くし、「夜の街」は人生の裏の部分の掃きだめでもあり、もしかしたら、見知らぬ人同士が自分の「裏の顔」を、告解し、懺悔する場であるのかもしれません。

 

8年間のダブル不倫を解消して、深く傷ついているおじさんに出会ったことがあります。真面目そうな、いや、確実に真面目で誠実であろう人でした。酒を飲んでいても.自分を律することができ、社会にたいしても誠実でありたいという主張のおじさん。

 

家庭もうまくいっていて、特に問題もなく、夫や父親の役割もきちんと果たしているおじさん。だけど、同世代の人妻と恋に落ちてしまったのだそう。そう、世にいうダブル不倫。すきですきでたまらなかったそう。お互いに家庭があるんだからと、何回も別れようと努力をしたけど、お互いに好きすぎて、どうしても別れきれず、気がつけば8年付き合ってしまったのだそう。

 

もう、あまりにも好きすぎて、お互いに家庭を壊して、二人で一緒になろうか、という話まで出たことがあったらしいのですが、お互いにやはり、子供がネックだったのでしょう、なんとなく、そういう話も立ち消えになったそうです。

 

そして、もう、こんなに好きな状態で、会いたいときにも会えず、悶々として、なおかつ、うまくいっている家庭への罪悪感やもろもろから、やっと、ふんぎって別れたのだそう。

 

その、悲しみで酔っ払っているタイミングで、私と席を隣にしたのでした。そのおじさんは

 

「息子にでも、俺が死んだときは、嫁にばれないように、彼女の写真を棺桶に入れてくれと頼もうと思っている。」

とまで、言っていました。

 

「不倫は良くない。」というのは簡単です。ですが、好き合った人たち同士の情熱は貞操義務や、婚姻では縛れないほど、苦く切ないと、そのおじさんが教えてくれました。

 

つらつらとととりとめのない、おじさんの恋バナは、ちょっとしたフランス映画のように、その情景を想像させ、私まで、一本の映画を見終わったような切なさに襲われてしまったほどです。

 

事実は小説より奇なり。逆に、8年間ものあいだ、よき夫であり、よき父親であると思っていた相手が別の女と付き合っていたと知ってしまった時の妻の心はいかばかりか。逆もまたしかり、よき母で、よき妻だと思っていた相手が自分以外の男と8年も恋をしていたと知った夫の心中はいかばかりか。このケースはお互い8年もの間、不倫がばれず、しかもバレないまま、きれいに別れられたケースですが、もっと、複雑なケースも、夜の街にはゴロゴロ落ちているのです。

 

それぞれが、それぞれに、複雑な思いで生きている。夜の街は、私にそれを教えてくれました。