女だから言えること

老いとともに。

【おすすめの本】木に学べ

 最近、たまたま建築士の方とお話をすることがあって、私自身は数字や数式を見ただけで頭が痛くなるくらい理系とは程遠い人間なのですが、彼のお話があまりにも面白かったので、紹介してもらった「木に学べ」という本を読んでいます。

 日本の伝統的な建築構造(伝統工法?)は柱と梁を、継ぎ手という手法で複雑につないで丈夫で機能性の高い建物を作る工法だと認識していました。ですが、ある時、「法隆寺の一本柱の謎」みたいなドキュメンタリー番組を見て、日本の伝統工法すごい!!と興味深く思っていました。

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 私では、いろんなことを上手く説明でいないので、リンクを張っておきますが、法隆寺はまず木材の一本柱であるということがすごいことだし、立てているというより、吊っているよう構造だとテレビで見たような気がします。(勘違いだったらごめんなさい。)それが一本のしなやかな木だからこそ、地震が来ても、土台の上を滑り、しなり、建物自身を倒壊させないといったような話をそのテレビ番組で見たときには、その人間の英知と木は切り倒されても生きてるんだ…と感慨深い気持ちになって、少し泣いてしまったような記憶があります。

 「職人の勘」みたいなことって、体験的にきっとこうだろうってことの積み重ねで、それは数百年、数千年の人間の体験や思考の積み重ねなんだろうし、歴史と伝承という言い方をしたらすごく観念的になってしまうけど、「職人の勘」みたいなものはすごく「統計学」に依拠してるんだろうなって感じました。

 木も、木が育つ森も、建物を建てる土地もそれぞれに特性があって、固い木、しなる木、気候の寒い森、雨の多い森、色んな環境でそだったいろんな木材が、湿気の多い土地、からからに乾いた土地、日照量の多い土地、少ない土地といったように様々な土地で活躍していく。そう思うと、すごくロマンのある話のように思えてくるから不思議です。

 木の特性、建てる土地の特性、建築の目的などに対して、それぞれがそれぞれに独特の背景を持つ建築物を、それに最適な工法でカスタマイズしていくありようが、様々な体質の患者を診ていく医学にも近い感じがして、すごく興味深いお話です。

 また、法隆寺の一本柱も地震がきたらしなって倒れないとか、薬師寺の西塔も500年経つとちょうど東塔と同じ高さまで沈むということを計算して建てられているそうで、建てた人達もすごいけど、建物そのものもなんだか生き物みたいで、水木しげる氏や宮崎駿氏のもののけの類に思えてきたりするから不思議です。

 私は昔、ブコメで「医学」の話になると「患者の体質が多種多様である以上、医学は統計学に依拠せざるを得ず、唯一絶対の正解は出ないだろう」とちょくちょく書いていました。それと同様に、建築学も常に様々な素材や土地や目的に合わせて、「正解」ではなく「最適解」を求めていく冒険のように見えて、とてもロマンチックだなぁと思ってしまいました。

 宮大工の西岡常一氏の「木に学べ」は、建築のロマンだけでなく、一人の職業人としての人間のありようを、ここぞとばかりに見せつけてくれるエネルギーがありました。こんなにも向いている仕事があった人は本望だったろうな…と思えるほどに。私たちの時代には「筋が通っている」とかいないとかいう言葉で表現された、人間同士の折り合いや、整合性についても深く考えさせら、また後進を育てるということはどういうことなのかということについても考えさせられました。

 宮大工としての西岡氏というよりも、「自分の生きている世界やそこに存在する人間を愛する、ひとりの人間」としての西岡氏が、建築を通して人や世界を思いやる姿、もっと言えば過去までさかのぼって過去の世界や過去に生きていた人々の技術や生活にまでも敬愛を示す姿が美しい本だというふうにも私には読み取れました。

 建築に興味のない方でも、一人の人間の生きざまを見せつけられることで、自分の人生について顧みることのできる一冊だと思いました。ぜひ、ご一読を。